青木賢人(2002)

日本アルプスにおける氷河の高度分布特性と類型化

地学雑誌,111(4),498-508



要旨
日本アルプスの最終氷期の氷河作用は「非成帯的氷河作用」と「成帯的氷河作用」に分類することができる.前者のタイプに属する氷河の地形学的平衡線高度 ELAg は流域最高点高度 Hs によって規定されており,雪の移流の効果などの微気象現象によって強制降下させられている.このタイプの氷河の垂直的/水平的分布は非成帯的かつ点在的となる.一方,後者のタイプに属する氷河の ELAg は Hs に対して独立であり,地域的(広域的)な温度条件を反映している.稜線の高度が広域的平衡線高度にくらべて十分に高い場合,垂直的/水平的分布は成帯的かつ連続的となる.これらの類型は,現成の氷河においてもカムチャッカ半島,アルタイ山脈,コーカサス山脈で認められている.これらの事実は,この類型化がさまざまな時代,場所の氷河に適用できることを示唆している.日本アルプスの氷期の氷河の多くが「非成帯的氷河作用」に属しており,標高の高い北アルプスにおいては最終氷期極相期に「成帯的氷河作用」が認められた.この観点から,日本アルプスの氷期の氷河は二つの類型の時空間的境界領域に存在していた氷河であると言える.局所的な要因によって規定される「非成帯的氷河作用」に注意を払うことは,氷河地形やその平行線高度に基づく古環境復元を行う場合,重要なことである.

キーワード:氷河地形,日本アルプス,平衡線高度,稜線高度,「成帯的氷河作用」,「非成帯的氷河作用」